東南アジアは世界最大のタピオカスターチ生産地域です。その中でもベトナムは、豊富な天然資源とタピオカ（キャッサバ）栽培に適した気候条件に恵まれ、大規模な生産が可能であることから主要な供給国となっています。タピオカスターチには、大きく分けて「ナチュラル（未加工）」と「加工（改良）」の2種類があり、食品用途から工業用途まで幅広く利用されています。本ガイドでは、ナチュラルタピオカスターチと加工タピオカスターチの違いについて説明します。ベトナムのタピオカスターチ市場について、さらに詳しく見ていきましょう。
1. ナチュラルタピオカスターチと加工タピオカスターチとは？
ベトナム産タピオカスターチ（またはベトナム産キャッサバスターチ）は、世界最大級のデンプン供給源の一つであり、トウモロコシデンプンに次ぐ規模を誇ります。これは、東南アジア原産のキャッサバ（タピオカ、マニオクとも呼ばれる）の根から抽出された、白く乾燥したデンプン製品です。タピオカスターチには、**ナチュラル（未加工）と加工（改良）**の2種類があります。
ナチュラルタピオカスターチは、最も純粋なタイプで、化学的に改変されていないタピオカのみを含みます。キャッサバの根から得られ、不純物が非常に少なく、風味はほとんどなく、優れたゲル特性を持ちます。日常の調理や食品加工では多用途に利用できますが、食品業界や工業分野での応用は、その機能特性の制限により限られる場合があります。このため、物理的・化学的手法によってデンプン特性を改善する研究が進められ、加工タピオカスターチが開発されました。
加工タピオカスターチは、一定の条件下で物理的・化学的・酵素的処理を行うことで、ナチュラルスターチを改良して作られます。これにより、加熱、高せん断、低pH、冷凍や解凍など、一般的な加工や保存条件下でも安定して機能するようになります。加工タピオカスターチは、増粘剤、安定剤、乳化剤として幅広く利用されています。
一部の加工キャッサバスターチは、食品および工業製品に使用されています。（出典：Aseancassava）
2. ベトナムにおけるタピオカスターチの生産
2.1. ナチュラルタピオカスターチ
ベトナムのタピオカスターチは、主に新鮮なキャッサバ根を湿式製粉することで生産されます。十分に成熟し、品質の良いキャッサバ塊根は、およそ25％のデンプンを得ることができます。乾燥キャッサバチップ100kgあたり、およそ60％のデンプンと10％の乾燥パルプを回収することが可能です。
新鮮なキャッサバの根はタピオカスターチ工場へ輸送されます。（出典：Viego Globalチーム）
この工程では、キャッサバの根がタピオカスターチ工場に運ばれます。ほとんどの工場では、搬入されたキャッサバの根を1〜2日以内に処理し、腐敗しやすい生の根を長期間保管することは避けています。最初に、キャッサバの根は乾式ふるいにかけられ、土、砂、その他の不純物を取り除きます。その後、パドル式洗浄機で洗浄され、一部残っている皮（湿った皮）や硬い茎や根株は手作業で取り除かれます。
次に、ラスパーと呼ばれる機械を用いて、洗浄後の根を細かく切断・粉砕します。得られた根のスラリーは一連の抽出機に通され、粗いものから細かいものまで段階的に処理され、パルプがデンプンスラリーから分離されます。
タピオカスターチ工場の生産システム（出典：Viego Globalチーム）
ベトナムのキャッサバ工場をバーチャル見学: HERE
微細抽出で得られたデンプンスラリーは、一定の温度下で濃縮されます。その後、脱水用遠心分離機に通され、水分がさらに分離されます。この工程により、スラリー中の水分は約60％から、ケーキ状の35〜40％まで減少します。次に、このデンプンケーキは熱風乾燥機（フラッシュドライヤーとして知られる）で乾燥され、水分が12〜13％まで下がり、販売可能な状態となります。
ナチュラルタピオカスターチの製造工程（出典：Breuninger et al., 2009、Aseancassava）
以下は、食品および工業用途に使用可能なベトナム産ナチュラルタピオカスターチの標準品質です。
- 炭水化物（デンプンとして）：85％以上
- 水分含有量：最大 13.0％
- タンパク質含有量：最大 0.20％
- 灰分含有量（m/m）：最大 0.20％
- 白度：90％以上
- 酸度（1N NaOH ml/100g）：最大 1.5
- 10％溶液のpH：5 ～ 7
- 粘度（6％溶液）：最低 650～850 BU
なお、規格の一部指標は品質グレードや製造業者によって多少異なる場合があります。
2.2 ベトナムにおける加工タピオカスターチ
物理的に加工されたスターチ（プリジェラチナイズドスターチ）
ナチュラルタピオカスターチは冷水に不溶であるため、用途が一部制限されます。そのため、**プリジェラチナイズドスターチ（インスタントスターチ）**がナチュラルスターチから改良されました。これは調理済みの可溶性デンプンで、加熱せずに冷水中で増粘し、ゲルを形成します。プリジェラチナイズドスターチは、デンプンを加熱調理し、乾燥させる物理的プロセスで生産されます。乾燥方法には、ドラム乾燥、押出し乾燥、スプレードライが使用されます。一般的な製造工程では、固形分30～40％のデンプンスラリーをローラードラム乾燥機に流し込み、直接蒸気で160～170℃に加熱して乾燥させます。
化学的に加工されたスターチ
化学的加工スターチを製造する方法はいくつかあり、以下は食品および非食品産業でよく使われる代表的なタイプです。
酸処理スターチ（Acid-thinned starch）
塩酸などの酸で処理した化学的改良デンプンです。**シンボイリングスターチ（thin-boiling starch）**とも呼ばれ、加熱すると低粘度のホットペーストを形成し、冷却すると不透明で硬いゲルを作ります。フィルム形成やゲル化特性に優れ、製菓、製紙、繊維分野に利用されています。
酸化スターチ（Oxidized starch）
アルカリ条件下でタピオカデンプンを次亜塩素酸ナトリウム（NaOCl）と反応させて得られます。製紙工程のサイズプレスで無塗工紙の表面強化に用いられます。
ピロデキストリン（Pyrodextrins）
デンプンを鉱酸の存在下で加熱分解して得られます。フィルム形成能が高まり、溶解性が向上し、ホットペーストの粘度が低下するため、優れた接着剤として利用されます。
酵素分解スターチ（Enzyme-converted starch）
酵素によって加水分解されたもので、溶解性が改善され、粘度が低下します。加水分解度が低い製品は、インスタント食品に広く利用されています。
ベトナムで一般的な加工タピオカスターチの種類
- アルファスターチ（プリジェラチナイズドスターチ）
- 加工デンプン E1404（酸化スターチ）
- 加工デンプン E1412（ジスターチリン酸）
- 加工デンプン E1414（アセチル化ジスターチリン酸）
- 加工デンプン E1420（アセチル化スターチ）
- 加工デンプン E1422（アセチル化ジスターチアジペート）
- カチオン化スターチ
ベトナムの改良タピオカスターチ工場の内部
3. タピオカスターチの主な用途
3.1 食品分野
ナチュラルタピオカスターチは、ベーカリー製品などの食品レシピに広く使用されています。ナチュラルおよび加工タピオカスターチは、食品において増粘、結合、食感付与、安定化、ゲル化、フィルム形成、乳化の役割を果たします。さらに、フィラー、甘味料、フレーバーキャリア、脂肪代替品としても機能します。使用例としては、缶詰食品、冷凍食品、ドライミックス、ベーカリー製品、スナック、麺類、ドレッシング、スープ、ソース、乳製品、肉・魚製品、ベビーフードなどが挙げられます。
3.2 飲料分野
固形成分を含む飲料では、加工スターチがコロイド安定剤として利用されます。また、加工性や機能性の向上により、スターチ系甘味料はショ糖に代わり飲料に好まれて使用されています。
3.3 菓子分野
スターチ製品は、ゲル化、増粘、食感の安定化、泡の強化、結晶の制御、接着、フィルム形成、光沢付与などの用途で菓子製造に幅広く使用されています。
3.4 製紙分野
工業用タピオカスターチは、高い白色度、安全性、清浄性、粘性を備えているため、製紙産業で大きな役割を果たします。また、保水性と乾燥性に優れていることから、紙の品質向上に大きく寄与しています。
3.5 接着剤分野
デキストリンは優れた接着剤であり、段ボール、紙袋、ラミネート板、糊付き紙、テープ、ラベル、切手、封筒などの製造に利用されます。また、動物飼料や建材においても、キャッサバスターチは接着剤やバインダーとして使用されます。
3.6 繊維分野
繊維産業において、タピオカスターチはサイジング剤として使用され、糸を強化・保護し、製織効率を改善します。さらに、仕上げ剤として生地をなめらかにし、染色用の増粘剤としてプリント素材を鮮明で耐久性のあるものに仕上げます。
3.7 医薬品・パーソナルケア・化粧品分野
医薬品分野では、ナチュラルおよび加工キャッサバスターチは錠剤の結合剤、フィラー、崩壊剤として利用されます。
パーソナルケア分野では、
- おむつや生理用品に吸水剤として使用
- 医療用手袋には着用を容易にするためにスターチ粉末が含まれる
- スキンケア製品では、鉱物油系保湿剤のキャリアとして特殊加工スターチを利用
- 化粧品では、乳化剤、カプセル化剤、サイジング剤、増粘剤、その他の添加剤として幅広く使用されています。
こちらを日本語に翻訳しました。シンプルで分かりやすい表現にしています。
3.8 その他の産業分野
ナチュラルタピオカスターチは、**肥料やバイオスティミュラント（植物活性剤）**の製造に利用され、植物の成長を促進します。 また、**金属産業（例：製鋼業）**においても活用が可能です。
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